会所越え・その3

すっぱり切れ落ちた斜面のトラバースを終えると、そろそろ前回の折り返し地点だ。小さな尾根状を回る区間に見覚えがある。ヤマレコのログをみると、まるまる200mくらい、道を外して前進し、あきらめて戻ることにした地点の下方50mほどに、正しい道があったことになる。
こういう歩き方をすると、GPSの有り難みを実感してしまうが、悔しいのも事実。地形図とコンパス(と高度計)で現在位置がわかるはずと思っていても、尾根の上や谷の中でなく、斜面の途中にいると、位置を正確に知るのは難しい。この径のように、地形図の表記にない径なら、なおさらである。
ふたたびレベルに進み始める。板小屋日向の尾根がかなり近づくが、尾根に乗ることはなく、レベルながらやや下り気味に径は続く。周囲を見渡すと斜面の上にも下にも、同じ程度の太さの径が見え、不安なことこの上ない。しかし、先行文献によればこの先、ジグザグに下る区間があるはずなので、それを見落としたら一大事と、感度をマックスにしてルートファインディングしていく。
今回も小尾根の上あたり、どうも進行方向の踏み跡が怪しく、右下に切り返して下る径があるように見えた。「まっすぐかもしれない」と後続の岡根君に止まってもらい、右に下っていく。自信はない。自信はないが、これかと思う。次に左に切り返す地点を見定めるべく、緊張して降りて行く。このルートのキモは、「径は続いていると信じること」であると思う。果たして、後ろから来る岡根君が「これだと思うよ」と言う。前に一人、僕が歩いていることで明確になっているのか、それとも本当にこれが正しい道なのか。自分の勘を信じて左に切り返し、続いてもう一組、右、左ターンを切って、道の付き具合から「これが正解だったんじゃないだろうか?」と思えるくらいになる。古い5万図に見えるこの道の破線が、ほぼこんな感じなのも、ちょっとだけプラスに思える。
またレベルに進むようになり、ワイヤーが道を横切る。先行文献で読んだときは、どんな風になっているのか気になっていたが、斜め上から下へ、ハッキリと道を横切っている。これを見た時点で「オンルートだろう」と思えた。
続いて径は小尾根に乗った。板小屋日向の尾根かと思ったが、違う。コンパスを振ると正面に見えているのが目指す尾根で、径はその尾根の20m下くらいへと巻いていってくれなければ困る。しかしここからも難しかった。径は目指す尾根に乗る必要はないけれど、あまりにも踏み跡が入り乱れ、どれが峠道かわからないのだ。
もう林道合流まで1kmを切り、時間的にもなんとかなりそうだと踏んで、僕らは倒木が乱れ飛ぶ斜面の踏み跡へと進んだ。
(続く)