深田久弥の小品の一節に、こんなのがあったのを記憶している。
(空を見あげて)
「アンリ・ルソーだね」
「税関吏【ルビ=ドアニエ】の雲か」
文中では、一方が茂知君、他方が不二さんの発言とされている。
茂知君は望月達夫氏、不二さんが藤島敏男氏のことなのは、古くから山をやってきた人には旧知の事実だろう。
僕は望月さんと浅野孝一さんの推薦で山岳会に入った(入れた)から、望月さんのことは少々気にかけながら生きてきているけど、特にこの一節は強烈に印象に残っている。
なぜか。
それは、この世代の山ヤ(の一部)が、こういうことを言いながら山を歩いていたことに、極めて鮮烈な印象を受けたからだ。
僕はそれまでアンリ・ルソーを知らなかった。
それどころか、初めてこの「御座山」を読んだときから今まで、ルソーに「税関吏の雲」という作品があるのだとばかり思っていた(恥)。
ひょっこり思いついてこの度、ネットで検索し、ルソーのバックグラウンド、そして絵の特徴を知り、「なるほど」と膝を叩いた。
こんな素敵な一文がいまだかつて自転車ツーリング界から出てこないことを悔しがっているだけではない。
こんなに久しぶりに「御座山」の一文を掲載してくれた文庫本、
その名も斬新な
「拝啓 山ガール様」
どうもありがとう。